「食堂」(島崎藤村)

震災からの復興

「食堂」(島崎藤村)
(「日本文学100年の名作第2巻」)
 新潮文庫

お三輪は
息子新七のもとを訪ねる。
お三輪は京橋で
香や扇子、筆、墨などを扱う
店を経営していたが、
関東大震災ですべてを失い、
気力をなくしていた。
新七は震災後の混乱の中で、
これまでの商売を諦め、
新しく芝に食堂を開く…。

関東大震災は東京という街の
一つの転換点だったのでしょう。
古いものが壊され、
新しいものが生まれてくるという。

新七の店は繁盛していたのです。
忙しげに働く新七、
それを支える嫁のお力、
そして新七を助けて店を
切り盛りしている料理人広瀬。
その様子を見たお三輪は、
安心しつつも何か
落ち着かないものを感じます。
新七は新しい世の中の流れを
しっかり見据えている、
それに対してお三輪は古いものを
忘れ去ることができないのです。
「今度の震災は
 何もかもひっくり返して
 しまったようなものです…
 昔からある店の屋台骨でも…
 旧い暖簾でも。
 上のものは下になるし、
 下のものは上になるし」
「上のものが下になって、
 下のものが上になるなんて、
 何だかお前さんの言うことは
 恐ろしい」

かつての暖簾に
未練のあるお三輪に対し、
新七は新しい人との
繋がりの大切さも
母親に説くのです。
「人物さえ確かなら、
 どんな人とでも手を組んで、
 尻端折りでやるつもりですよ。
 私はもう
 今までのような東京の人では
 駄目だと思って来ました。」

ここにも新しい時代の流れを
読んでいる若者の姿があります。

お三輪は新七のもとを去ります。
母親の寂しげな思いを残して
物語は終わるのです。
何もドラマは起きません。

物語はすべてお三輪の側の
目線から捉えられています。
作者・島崎藤村の思いも
それに重なっているのでしょう。
本作品発表は1926年。
藤村54歳の作品です。
作者自身も、
急激に変わりゆく東京の姿に
哀惜の情を感じていたのかも
知れません。

東京はこのあとも大空襲によって
再び壊滅しています。
東京は、いや日本自体が
崩壊と復興を繰り返しているのです。
もし、自分の町が衰亡したとき、
自分はお三輪、新七の
どちらの感覚で
それを捉えることができるのだろう。
ふとそんなことを
感じてしまいました。
昨日取り上げた「藁草履」に続き、
読み返してみました。

※なお、登場人物広瀬は、
 かの魯山人が
 モデルなのだそうです。
 資料を探しているのですが…
 まだ見つけることができません。

(2020.2.20)

created by Rinker
¥200 (2024/05/17 16:25:57時点 Amazon調べ-詳細)

【青空文庫】
「食堂」(島崎藤村)

【関連記事:
   日本文学100年の名作第4巻】

【島崎藤村の本はいかがですか】

created by Rinker
¥539 (2024/05/17 07:04:03時点 Amazon調べ-詳細)
created by Rinker
Shinchosha/Tsai Fong Books
¥825 (2024/05/17 16:25:58時点 Amazon調べ-詳細)
created by Rinker
¥649 (2024/05/17 07:04:02時点 Amazon調べ-詳細)

【今日のさらにお薦め3作品】

【こんな本はいかがですか】

created by Rinker
¥842 (2024/05/17 16:25:58時点 Amazon調べ-詳細)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA